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高松高等裁判所 平成4年(ラ)32号 決定

抗告人 有限会社丸道興産

右代表者代表取締役 野道和也

右代理人弁護士 水上正博

相手方 阪部海運有限会社

右代表者代表取締役 阪部安廣

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件保全処分の申立てを却下する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件即時抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方の本件申立てを棄却する。」との裁判を求めるというのであり、その理由は別紙「抗告の理由」記載のとおりである。

二、一件記録によれば、次の事実が認められる。

1. 抗告人は、平成四年三月一三日、相手方阪部海運有限会社及び申立外有限会社南國商事を被告として手形金請求の訴え(松山地方裁判所今治支部平成四年(手ワ)第四号)を提起し、同年四月二四日、相手方らは合同して抗告人に対し、金一〇一五万五〇〇〇円及びこの内金に対する手形法所定の利息を支払うべき旨の仮執行宣言付手形判決を得た。

2. 一方、相手方は、同年三月六日、前同支部に和議開始の申立て(同庁平成四年(コ)第一号)をし、審理中のところ、同月九日、同裁判所により相手方所有財産に対する和議開始決定前の保全処分の決定(同庁同年(モ)第二三号)がなされた。

3. 然るところ、相手方は、同年五月二〇日、同裁判所に対し抗告人が前記債務名義により、現に相手方の債権に対し強制執行をし、更にその他の相手方所有財産に対して強制執行をするおそれがあるから、将来和議開始決定がされた場合にその実効をあげるため、和議法二〇条一項に基づき、右債務名義に基づく強制執行は本件和議開始決定があるまでこれを許さない、との申し立て(同庁同年(モ)第五九号)をしたところ、同裁判所はこれを認めて、翌二一日その旨の保全決定をした。

三、そこで、検討するに、和議開始決定前の保全処分(和議法二〇条)は、和議申立てがあっても、債務者はその所有財産の管理処分権を失わないため、和議開始決定がなされるまでの間において財産の散逸を防ぐために認められた制度であるところ、債権者による強制執行は、債権者自身の債権の保全実現のために認められた権利であるから、債務者の財産一般に対する保全処分((モ)第二三号)がされたからといって、債務者の財産に対する強制執行(差押え)が許されないとする理由はない(和議法には和議開始決定前に債権者が債務者に対して強制執行をすることを禁じた条項はなく、また、債務者は、右開始決定があるまでは一方的に和議申立てを取り下げることができるから、和議開始決定前における強制執行を許さないとすると、和議申立てが取り下げられると、その間に、債務者の財産が散逸減少し、将来の債権者の執行が不可能もしくは著しく困難になるおそれが生じる。)。

ただ、債務者の財産に対する差押え後の換価手続の進行は場合によっては、将来の和議手続の円滑な遂行と成立を妨げる結果をもたらすことがあるから、差押え後の手続の進行は、和議申立てについての裁判がされるまで停止されるべきものというべきである。もっとも、この場合において、さきになされた裁判所による債務者の財産に対する保全処分の効果として、当然に強制執行手続の進行が停止されるのか、或いは、更に別個の手続停止の保全処分によって停止されるべきなのかについては問題であるが、本件は、債権差押転付命令を得た事案であるから、最早、執行手続は残存しないので、手続の進行を停止すべきことの必要性はない。

四、そうであれば、相手方の抗告人に対する前記仮執行宣言付手形判決に基づく強制執行自体を禁止する申立ては許されるべきではないから、これを認容した原決定は不当というべきである。

よって、原決定を取り消し、相手方の本件保全処分の申立てを却下し、抗告費用は相手方に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 田中観一郎 井上郁夫)

〈以下省略〉

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